お役立ち情報

相続対策基本3本柱

相続対策は、相続税対策だけでなく、相続争いの防止や相続税の納税資金対策も併せて行うことが必要です。相続争いが発生すると金銭的な損失だけでなく精神的にもその負担は大きなものになります。また、相続税は財産に対して課税されることから、大半の事例では相続税を手許の現預金等で一括納付することが困難な場合が少なくないからです。

相続対策は、遺産争いの防止、相続税の納税資金対策及び相続税の軽減対策が基本3本柱といわれています。

相続対策の立案では、時間軸で対策を組み立てる必要があると思います。多くの相続対策の方法には、対策の効果をあげるのに時間を要するものと、短時間でその効果をあげることができるものがあります。それらを分類整理して、何から順番に手をつけていけばよいか検証しておかなければなりません。

 

1. 遺産争い(争族対策)の防止

遺言書の作成による対策が大変効果的であり、その他、生前に遺産分割しやすいように財産を分割または換金しておくことなどが考えられます。

*「争族」とは、相続人が遺産争いを行うことを意味する造語です。

 

2. 相続税の納税資金対策

相続税が超過累進課税であり、適用される限界税率が30%から50%であるケースも多くあります。しかし、相続財産に占める現預金の割合は平成27年度版国税庁統計年報書から見ると30.7%となっています。遺産分割によって現預金を配偶者などが主として相続することになると、他の共同相続人は、一時に現金で相続税を納税することは困難となり、延納又は物納など相続税の納税方法の特例を選択することになります。

*限界税率とは、適用される累進税率のうち最も高い税率をいいます。

 

3. 相続税の軽減対策

節税対策は毎年税法改正が行われることから、現在効果的な対策も法改正によりその効果も大きく減殺されることも予想されます。そのため、相続税の軽減対策重視の対策は賢明な選択とはいえません。

相続対策が節税重視型になると税制改正のリスクをこうむる危険性が高くなります。相続税は相続が発生したときの税法を適用することになることから、現在有効な節税対策も相続発生時点ではその効果が大きく減殺されてしまうこともあるかもしれません。

 そのため、「争族」対策や納税資金対策を中心に実行し、結果として相続税の軽減対策にも効果があったとするような取り組み方が望ましいと考えます。

 

 

相続税対策5つの基本対策

小学一年生で足し算と引き算を、小学二年生で掛け算や割り算など、算数の基本的計算を学びます。算数ができないのに、方程式を解くことや関数を使用したりすることはできません。このことは、誰でも知っている相続対策の基本項目(遺言書の作成、生前贈与の実行、生命保険の活用、養子縁組の検討、資産管理会社の活用なと)を、まずしっかりと実行に移し、そのうえで、相続対策の効果が不十分と思われるときに、もう少しリスクとコストの高い対策を検討するということと同じと考えられます。

 また、相続対策では、車の運転でカーナビを活用するのと同じような手順を踏めば相続対策は実行することができます。カーナビは、現在地と目的地をセットすれば複数のルートが表示され、目的に応じてルートを選択することができます。たとえば、「推奨」「距離優先」「幹線優先」と「有料標準」「有料回避」を組合わせ、実用度の高いルートを探索し、それぞれのルートを距離、所要時間、料金で一覧比較したり、ルート上の渋滞箇所を地図上で確認しながら比べることができるなどの機能を備えているものもあります。

 これは、相続対策では、現在地は「財産のたな卸」によって確認し、目的地は「本人の願い」と置き換えることができます。そのため、相続対策は、「財産のたな卸」を行い、「願いを明確」にして、かつ、高性能なカーナビ(アドバイザー)が揃えば相続対策は実行に移すことができます。

 そこで、相続対策は、まず財産のたな卸から始めます。そして、相続税対策5つの基本対策を実行します。それぞれの対策の具体的な内容については、以下のとおりです。

 

 

1. 遺言書の作成

遺言のないときは、民法が相続人の相続分を定めていますので、これに従って遺産を分けることになります(これを「法定相続」といいます。)。

ところで、民法は、例えば、「子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。」というように、「抽象的に相続分の割合を定めているだけ」なので(民法900条参照)、遺産の帰属を具体的に決めるためには、相続人全員で遺産分割の協議をして決める必要があります。しかし、誰でも、少しでも多く、少しでもよいものを取りたいのが人情なので、自主的に協議をまとめるのは、必ずしも容易なことではありません。協議がまとまらない場合には、家庭裁判所で、調停又は審判で解決してもらうことになりますが、これも、争いが深刻化して、解決が困難になる事例が後を絶ちません。遺言で、例えば、妻には自宅と○万円、長男にはマンションと□万円、二男には別の土地と◇万円、長女には貴金属類と△万円といったように具体的に決めておけば、争いを未然に防ぐことができるわけです。

また、法定相続に関する規定は、比較的一般的な家族関係を想定して設けられていますから、これを、それぞれの具体的な家族関係に当てはめると、相続人間の実質的な公平が図られないという場合も少なくありません。例えば、法定相続では、子は皆等しく平等の相続分を有していますが、子供の頃から遺言者と一緒になって家業を助け、苦労や困難を共にして頑張ってきた子と、そうではなくあまり家に寄りつきもしない子とでは、それなりの差を設けてあげないと、かえって不公平ということもできます。すなわち、遺言者が、自分のおかれた家族関係をよく頭に入れて、その家族関係に最もぴったりするような相続の仕方を遺言できちんと決めておくことは、後に残された者にとって、とても有り難いことであり、必要なことなのです。

 

 

2. 生前贈与の実行

 暦年贈与は、1回あたりの相続税の軽減効果は大きくないものの、長い時間をかけて継続して実行すればその累積効果は相当大きなものになります。

 また、贈与税の基礎控除110万円以下の贈与でなく、贈与税の負担割合10%以下の範囲(一般贈与の場合は470万円、特例贈与の場合には520万円)で贈与すれば、相続税の最低税率以下の負担で次の世代などへ財産の生前移転を効率良く図ることができます。

 相続時精算課税を活用した贈与では、贈与する財産の相続税評価額を引き下げ、多額の財産を一括して贈与すれば、相続開始までに値上りすることを防止することに役立ち、かつ、その資産から生じる果実を受贈者に移転させる効果も期待できます。 

このように、生前贈与は、多くの人が実行し、かつ、効果的な対策といえます。

 

 

3. 生命保険の活用

 相続税の納税資金確保と相続税の軽減に役立つ生命保険の活用も重要です。

 預貯金を生命保険金に組み替えて、500万円×法定相続人の数に相当する生命保険金を確保すれば非課税財産として相続することができます。

 また、少ない保険料で大きな保険金を確保できれば、相続税の納税資金に役立ちます。

生命保険金は、加入したときから必要な納税資金の確保ができ、預貯金等による相続税の納税資金の確保に比べて長い時間を必要としません。

 

 

4. 養子縁組の検討

養子縁組の制度の本来の目的、存在理由は、未成年養子縁組といって親のいない未成年者のための教育、監護、福祉を養親が行うための制度にあるとされています。また、成人について養子が認められていますが、養子が成人の場合は人為的な家族関係の創設、そして副次的に財産の承継、家庭内経済協力等にあるとされています。

実務では、主として養子縁組は、養親の老後の扶養や遺産相続の後継者確保などを目的としてなされます。養子は、具体的な血縁とは無関係に、人為的にいわば法律の擬制によって本人の子として扱われます。そのため、養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から血族間におけると同一の親族関係が生じ、実子も養子も同じ相続分を有し、かつ、遺留分も認められます。民法上、養子の数に制限はありません(尊属や年長者を養子にすることはできません)が、安易な養子縁組が相続争いの原因となったりすることも考えられるので、注意をしたいものです。

 

相続税対策として行われる養子縁組は、普通養子縁組で、その対策効果の即効性と手続の簡便性から見れば最も優れた対策といえます。養子縁組を行うことで、相続税の基礎控除額が増加し、超過累進税率が緩和されることから相続税が軽減されます。

しかし、相続税法上は実子がいる場合に養子は1人まで、実子がいない場合には養子は2人までと制限されています。この規定は、法定相続人の「数」に算入する養子の「数」についてのもので、あくまでも相続税の計算上の取扱いです。民法上の養子縁組そのものを制限するとか、養子の嫡出子たる身分や相続権を剥奪するなどというものでは決してありません。

 

 

5. 資産管理会社の活用

 相続税の負担軽減を図るために、被相続人に集中する収入を分散させる対策も効果的です。たとえば、賃貸不動産を所有する人が不動産管理会社を設立して、その賃貸不動産を相続人が主宰する資産管理会社へ譲渡した場合を検証してみます。

 賃貸不動産が資産管理会社へ移転したことに伴って、賃貸収入が被相続人から資産管理会社に移ります。そのことで、被相続人の毎年の所得税等が軽減され、かつ、資産の増加を防止することができます。

 資産管理会社の株主を被相続人の相続人などとしておけば、資産管理会社の株価が上昇しても被相続人の相続財産は増加しません。資産管理会社の活用については、所得税、法人税、消費税、贈与税及び相続税に渡る課税問題が生じることから、専門家に相談して誤りのない活用法でなければ効果が期待できません。